著作物の公開利用ルールの未来
3月27日に開催された文化庁主催のシンポジウムは、なかなか興味深い内容だった。
第8回コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の公開利用ルールの未来」
主催:文化庁 協力:野村総合研究所(NRI)
◎基調報告「意思表示システムの在り方に関する調査研究」
の概要をNRIの小林慎太郎氏が報告。
結論として、「本調査研究委員会は、検討の結果、意思表示システム「CLIP システム」の構築・運用に係る事業は廃止する方向で委員の意見が一致し、評価をとりまとめることとなった。」そして、民間の自主的な取組(CCライセンス等)を支援すべき、と結んでいる。
◎活動報告「クリエイティブ・コモンズの現在」
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事 野口祐子氏による講演。
クリエイティブ・コモンズ(CC)の実例を豊富に紹介。
・初音ミク
→ ピアプロ・キャラクター・ライセンス+CCのデュアルライセンス(2012.12から)http://piapro.net/en_for_creators.html
・YouTube
→ YouTubeエディタにCC-BY表示。
・TED
→ CC BY-NC-ND表示。NDがついていると翻訳ができないが、翻訳プロジェクトは別に許諾している。TED Open Translation Project
・Flickr
→ Getty Imagesと提携。Gettyがハンティングしている。Gettyでの販売も実現できる。
・フォト蔵
・Picasa
→ 2008年の2枚のアルバムをCC BY-NC-SAで公開。無料ダウンロード可能に。
・jamendo(www.jamendo.com)
→ 投稿されている音楽は非営利だと全部使える。商用利用については有償ライセンスを提供中。
・CC Mixer(ccmixer.org)
・freesound(freesound.org)
→ 効果音、サンプル音源。
・HIVE
→ ICCのHVEプロジェクト。
・東京都現代美術館のプロジェクトなど
→ 慶応と京大も。
→ オンラインの教材、練習問題。Khan氏のTEDトークもお勧め。
・PLoS(www.plos.org)
→ 科学論文のOpen Publishingの草分け的存在。
→ 原稿料をもらうか出版料を払うかは、研究者にとっては誤差の範囲。それよりも幅広く知ってもらうことを重視している。
→ NatureはSCIENTIFIC REPORTSでOpen Publishingを採用。
→ 著者がOpen Accessを選ぶことができる。
→ 日本でも昨年6月、電子行政タスクフォースが発足。政府情報を公開する動きが始まっている。オーストラリア、ニュージーランド政府も。
フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環
- 作者: ドミニク・チェン
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CCの課題としては、以下のものがある。
・普及活動
・ライセンスの互換性(標準化)
・権利者不明の孤児著作物
・教育福祉などの公共政策的ニーズ
→ 例外規定、フェアユースなどは必要。CCではできないもの。利用者視点で。
・例外規定、最低制度その他の立法とのあわせ技が正解
◎パネルディスカッション「著作物利用における意思表示の未来」
モデレーター:
福井健策(弁護士/日本大学芸術学部客員教授)
パネリスト:
[1] 野口祐子(弁護士/クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事)
[2] 南條史生(森美術館館長)
[3] 津田大介(メディア・アクティビスト)
[4] 赤松 健(漫画家/株式会社Jコミ代表取締役社長)
[5] 山中弘美(文化庁著作権課著作物流通推進室長)
興味深い話題がいろいろ出たが、ここでは福井弁護士が冒頭で話した論点を紹介する。<パブリック・ライセンス(オープン・ライセンス)に関する動向>
(1)海賊版戦争と反ACTA
(ACTA:海賊版対策条約)
→ TPPには知財に関する条項がかなり入っている。
cf.TPPで日本の著札権は米国化するか?
(2)アーカイブ・孤児対策で攻めるEU
→ 2100万点のアーカイヴ。
→ 国会図書館のデジタル・アーカイブは220万点。
2012年、孤児著作物に関する欧州指令
Europeana:2015年に3000万点の公開を予定している。
(3)米国(M.パランテ米国著作権局長の議会陳述)
→ 著作権保護期間を50年から70年に過去伸ばしたら孤児作品が増えた。
→ 一部短縮の陳述(3/20)
→ 世界の潮目が変わってきたか?
パブリックライセンスをめぐる3つの問題意識
1.流通促進と収益モデルをどう両立させるか
2.アーカイブなど孤児作品対策どうはかるか
3.二次創作文化をどう守るか
【提案】孤児作品対策として政府がCCを推奨し普及・教育の協力を
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つまり、このシンポジウムは、文化庁が国独自のライセンス・システムの構築を断念し、世界の潮流に沿ってCC(等)を積極的に推進していくことを表明する、という画期的なイベントだったわけだ。
オープンデータの海外動向やTPPの知的財産権に関する問題についての議論も聴きたかったが、それは別の機会に譲ろうということでパネルディスカッションは時間切れとなった。
【参考リンク】
ITmedia:文化庁、CCライセンスを支援へ 独自ライセンス構築は断念
Internet Watch:そろそろ本気で「孤児作品」問題を考えよう